ハーモニーフィールズ

ヤヌシュ・プルシノフスキ・コンパニャ Janusz Prusinowski Kompania
祖国を思うショパンの魂に迫る「農村マズルカの世界」

<ショパンのマズルカ/ポロネーズの原点である農村の伝統音楽>

- 資料提供 THE MUSC PLANT -

ヤヌシュ・プルシノフスキ Janusz Prusinowski

ポーランド北部の都市で音楽的な家庭に生まれ育つ。ありとあらゆる伝統音楽に興味を持ち多くの種類の音楽/楽器を演奏、世界中に自分の情熱にぴったりあう音楽を探し求めていたヤヌシュだったが、 1990年代の終りにワルシャワ南部の小さな村で演奏されている農村マズルカに偶然出会ったことによって、すべてが大きく変わってしまう。

「自分の近くにこんなすごい音楽があったなんて」と開眼し、それ以降仲間たちと一緒にこの音楽の復興にすべてを捧げることを決意する。 農村を定期的に訪ね、楽器を手放してしまった かつての農村音楽家たちを説得。復活させた音楽家は1,500人、バンドは80組以上にのぼるという。

何度も農村のミュージシャンを訪ね、その教えを乞い、レパートリーを少しずつ広げていったヤヌシュは、2008年トリオとしてのデビュー作「マズルカ」をリリース。 2010年からは農村マズルカ・フェスティバルをワルシャワにて主催。農村マズルカの巨匠プレイヤーたちをワルシャワに招聘し、当初たった200名の観客からスタートしたこのフェスティバルは、 現在1週間に及ぶ大きな音楽イベントとして発展した。

特に最終日のダンス・ナイトは圧巻のひと言(2017年度は朝8時まで、2,000人が踊り狂ったのだそう)。同時に開催される古楽器を中心とした楽器フェアもヨーロッパ中から ディーラー100社以上を集め、盛大に開催される。

またトリオは、2012年、13年とポーランドの伝統音楽代表として世界的な国際音楽見本市WOMEXにポーランド代表として出演。 その他にもヤヌシュは妻のカラと一緒に子供が伝統音楽に親しむためのワークショップなども精力的に行なっている。

2014年、数々の功績が認められポーランドの文化勲章ブロンズ・メダルを受章。2015年スウェーデンの伝統音楽とポーランドの伝統音楽の親和性を追求したコンサート企画。

また2016年には国営TVでポーランドの農村伝統音楽の巨匠達を紹介した番組「Dzika Muzyka(Wild Music)」というドキュメンタリー(全10回シリーズ)の プレゼンターを勤めた。現在このワルシャワを取り巻く新しいフォーク・ミュージックの復興の中心的存在として、多くの若いミュージシャンに影響を与えている。

またワルシャワ南部の農村は伝統音楽の巨匠たちに直接演奏が学べる数少ない残された伝統音楽の聖地として、ヨーロッパ中の伝統音楽を演奏する多くの若者たちがヤヌシュに続けと集結する

これは個人の成功ではなく、本物のフォークリバイバル!

今回紹介したいのは、今まさにワルシャワで起こっているフォーク・ミュージック・リバイバル。これは個人の音楽がヒットしたとか、何万人も動員しているとか、そういう話ではない。

とはいえ、個人+数名の仲間でここまでのブームを作り上げたヤヌシュは、正に信念の人!現在「フォーク・ショウ」(ヤヌシュの言葉)と化してしまったワールド・ミュージックの本来の力を ここまで感じさせる音楽はない。若者たちは皆、<本物>を求めていた。

これぞショパンの魂!
ショパンはこの音楽にまさに中2(14歳)の時に出会った。

小さい頃から身体の弱かったショパンは静養のために滞在した村で婚礼や葬式があるたびに行なわれる農民の演奏に熱心に耳をかたむけた。 シャファルニア通信は、ショパンが、そんな田舎暮らしの様子を都会に住む両親に報告するために作った子供新聞。農夫の子が歌う旋律に惹かれ、もう一度歌ってほしいとせがみ小銭を渡すなどの エピソードが活き活きと綴られている。

「音楽学校では勉強したこともない百姓たちが耳から耳へ残した音楽。粗野で野性的で行き当たりばったりの和声の積み上げが不思議な音効果として彼の心をとらえて話さなかった」 (from 『ショパン論』佐藤允彦)

ポーランドの民族音楽研究家/画家のアンジェイ・ビェニコフスキ氏は「マズルカは農民の音楽。奴隷の音楽。アメリカのブルースと同じだ」と熱く語る。 その生涯のほとんどを亡命先のフランスで送りながら、ショパンは故郷を思い、多くのマズルカやポロネーズを作曲した。


© Kolekcja Muzeum Fryderyka Chopina, Narodowy Instytut Fryderyka Chopina

今、本当の復興をとげるポーランド。なぜ「今」なのか?

これについては何か正式に分析した論文や記事などは発表されていない。あくまで私と現地の文化担当官の分析であるが今、ポーランドはやっと自国の文化の素晴らしさを 見いだしたのではないかと思う。89年の民主化、そして2004年のEU加盟と、必死で他のヨーロッパ諸国に追いつこうと努力してきたポーランド。

辛い時代のことを必死で忘れようとする努力の時代を終えて、ユダヤでもない、ジプシーでもない、ポーランド人本来の文化を見つめられるようになったのではないか。 ヨーロッパの文化に追いつこうと必死で自国の文化に高い評価を与える事自体が、今までありえなかったのではないか。

いずれにしても音楽ばかりではなく建築、デザイン、映画などにいたるまで現在その盛り上がりを見せている非常に興味深い国。

2019年は日本/ポーランド国交100周年にあたる。ショパンの楽譜も来日するショパン展を始め、たくさんのイベントが目白押し!